最初に定植した越後姫に変化が出てきました
花芽が出てきた!
でもEC0.5〜0.6なのにチップバーン。
いちごでなぜ起こるのか調べてみた
「あった!」と喜んだ直後に、
「でも、こっちは何で?」(笑)
植物を見ていると、毎日こんな感じです。
この記事の要点
「まだかな〜、まだかな〜!」
「まだかな〜。
まだかな〜!」
って思いながら、一番最初に定植したハウスを歩きます。
一株ずつ中心を見ていく。
「ないな〜。」
「こっちも、まだかぁ〜。」
でも、そろそろだと思うんだよなぁ〜。
なんて思いながら見ていると……。
「あっ!
あった!」
見つけました。
いちごの花芽です。
苗の中にあった花芽が、外へ出てきた
花芽というのは、簡単にいうと、これから伸びて花になり、その先にいちごが実る部分です。
定植する前は、苗の中心にある生長点を取り出して、顕微鏡で花芽分化を確認していました。
その頃は、外から見ても分かりません。
クラウンの中で、小さな花になる組織が作られているだけです。
それが少しずつ成長して、ようやく肉眼でも見える場所まで出てきました。
これを見ると、
「ついに始まったなぁ〜。」
という感じがします。
あと1週間くらいで咲くかな?
まだ花芽が出てきたばかりです。
ここから花房が伸びてきます。
そして蕾が見えて。
花が開く。
あと1週間後くらいには開花するかなぁ〜。
なんて思いながら見ています。
そうなると、そろそろ準備しないといけないのが、
クロマルさん。
です。
花が咲いたら、受粉してもらう必要があります。
花芽が見えてくると、次にやることもどんどん見えてきます。
順調!……なんですが、気になることが一つ
花芽が見えた。
開花も近づいてきた。
そこだけ見れば、かなり順調です。
でも、その一方で、ちょっと頭を悩ませていることがあります。
それが、
チップバーン。
です。
葉っぱの先端や縁が褐色になり、傷んでくる生理障害です。
今回、不思議なのは「出てくるタイミング」
私のこれまでの感覚だと、チップバーンが出る時は、定植後に新しく展開してくる若い葉へ出てくるイメージがあります。
ところが今回。
定植して。
新しい葉が出て。
さらに何枚か展開した。
その後になって、チップバーンが見えてきました。
「なんで今?」
という感じです。
そこで、改めてチップバーンについて調べてみることにしました。
そもそもチップバーンは、何が起きている?
いちごのチップバーンは、一般的には若い葉で起こる局所的なカルシウム不足と考えられています。
ここで重要なのが、
「根の周りにカルシウムがない」
と
「葉の先までカルシウムが届いていない」
は、同じではないということです。
培地にはCaがある。
でも、生長点にはCaが足りない。
ということが起こります。
これが、チップバーンを考える上で一番大事なところでした。
なぜカルシウムが足りないと、葉先が枯れるの?
植物のカルシウムは、単なる「肥料成分」の一つではありません。
細胞壁を丈夫にしたり。
細胞膜を安定させたり。
細胞同士のつながりを保ったり。
植物の組織を作る上で、かなり重要な働きをしています。
若い葉は、ものすごい勢いで細胞分裂と細胞肥大を繰り返します。
その時にCaが十分届かないと、細胞壁や細胞膜を安定して作れなくなる。
膜が傷み。
細胞内の成分が漏れ。
最終的に、その組織が壊死します。
若い葉の成長速度
>
カルシウムを届ける速度
になると、
チップバーンが起こりやすくなる。
そんなイメージです。
カルシウムは、植物の中を自由に動き回れない
ここが面白いところです。
窒素やカリウムなどの一部の養分は、植物の中で比較的再移動できます。
でも、カルシウムは師管を使った再移動が苦手です。
基本的には、根から吸った水と一緒に導管を通って上へ運ばれます。
つまり、
水が動く
↓
カルシウムも動く
という性質が強い。
だから、根の周りにCaが十分あっても、水の流れがうまくいかなければ、生長点へCaが届かないことがあります。
しかも、若い葉はカルシウムを受け取りにくい
さらに厄介なのが、チップバーンが出る若い葉です。
成熟した大きな葉は、蒸散します。
葉から水分が抜けていくことで、根から葉へ水が引っ張り上げられます。
そして、水と一緒にCaも運ばれます。
ところが、まだクラウンの中にある小さな葉。
葉が開いていません。
蒸散もほとんどできません。
つまり、
一番カルシウムが必要な
急成長中の葉なのに、
自分では水を引っ張りにくい。
これが、若い葉にチップバーンが起こりやすい大きな理由の一つです。
そして今回、「今出た」のではない可能性がある
今回調べていて、一番気になったのがここです。
昔からのいちごのチップバーン研究を見ると、
障害そのものは、葉が外へ出る直前から展開中に起こり、症状は葉が大きくなった後に目立つ
ということが報告されています。
つまり、今日葉先が茶色くなっているのを見つけたからといって、今日カルシウムが足りなくなったとは限りません。
原因が起きた時
と
症状が見える時
にはズレがある可能性がある。
これなら、
「定植して何枚か葉が出た後なのに、なんで今?」
という疑問にも、一つ説明がつきます。
今見えている葉がクラウンの中で形成されていた時の環境。
そこまで戻って考えないといけないのかもしれません。
では、チップバーンを起こす条件を全部整理してみる
チップバーンは、
「カルシウム肥料が足りない。」
だけでは説明できません。
これまでのいちごや園芸作物の研究から考えられる要因を整理すると、かなり多くあります。
① そもそも根域のカルシウムが少ない
まず、一番分かりやすい原因。
培地や養液そのものに、カルシウムが不足している場合です。
これは当然、Ca不足につながります。
ただ、いちごではCaを十分与えていてもチップバーンが発生することがあります。
つまり、
カルシウムを入れれば必ず解決するわけではない。
というところが難しいところです。
② 養液が濃すぎる・ECが高い
養液の濃度が高いと、水を根から吸うための力が必要になります。
根の周りの浸透圧が高くなるからです。
すると、水の流れが弱くなり、Caの移動も悪くなる場合があります。
古いイチゴの研究でも、養液濃度を高くすると、若い葉のCa濃度が下がり、チップバーンが増えています。
特に夜間に濃い養液を与えた影響が大きかったという報告もあります。
ただ、今回の苺の花ことばでは、
定植初期のEC
0.5〜0.6程度
です。
かなり低めからスタートしています。
なので今回、
「液肥濃度そのものが高すぎた」ことは、主原因としては考えにくい
と思っています。
少なくとも、最初に疑うところではなさそうです。
③ 高窒素による急成長
窒素を多く与えると、葉の生育が旺盛になります。
葉がどんどん大きくなる。
ところが、その成長速度にCa供給が追いつかなければ、チップバーンが増えることがあります。
実際に、硝酸態窒素の多い条件で生育が促進され、チップバーンが増えたという報告があります。
ただ、ここも今回のEC管理を考えると、
「窒素を大量に与えて、ものすごく徒長させた。」
という状況ではありません。
なので今回、
高窒素・高ECだけで説明するのは
ちょっと無理がある。
ここが、私が「謎だなぁ」と思っている理由です。
ただしECだけでは、窒素の絶対濃度や培地内の実際の濃度までは分からないので、完全に除外はしません。
④ カリウム・マグネシウムとのバランス
ここは、今回かなり気になったところです。
カルシウム。
カリウム。
マグネシウム。
どれも植物には必要な養分です。
でも、根が吸収する時にはお互いに影響し合います。
いちごの研究では、養液中のCa量そのものより、葉のK:CaやK:Mgのバランスの方が、チップバーン発生と強く関係した例があります。
大切なのは、
「Caが何ppmあるか」だけではなく、
他のイオンとのバランス。
ということです。
だからECが低くても、K・Ca・Mgの比率によってはCa吸収が不利になる可能性があります。
⑤ 日中の高湿度で蒸散が少ない
カルシウムは、水の流れに乗って運ばれます。
なので、葉から水が出ていかない環境では、Caの流れも弱くなることがあります。
例えば、
雨。
曇天。
ハウス内の高湿度。
風が弱い。
こうした条件が重なると、蒸散が少なくなります。
すると、若い組織へのCa供給が十分でなくなる可能性があります。
特に定植後は、水分を切らさないように管理します。
もし、そこへ長雨や高湿度が重なれば、
根の周りには水がある。
でも植物の中で水が動かない。
ということも考えられます。
⑥ 逆に「夜が乾きすぎる」のも良くない
ここが、ちょっとややこしいです。
「湿度が高いと蒸散が減るなら、乾燥させればいい。」
というほど単純ではありません。
いちごの、まだ外へ出ていない若い葉は、蒸散でCaを引っ張れません。
そこで重要になると考えられているのが、夜間の根圧です。
夜、蒸散が少なく、根から水が押し上げられると、葉先などから水滴が出る「溢泌」が起こることがあります。
古いイチゴ研究では、
湿度の高い夜
+
比較的乾いた昼
で、若い葉へCaが入りやすく、チップバーンが少なくなった結果があります。
逆に夜が乾燥しすぎて根圧が十分作られないと、クラウン内部の小さな葉へCaを送りにくくなる可能性があります。
なので、
「高湿度=全部悪い」でもない。
昼と夜を分けて考える必要があります。
⑦ 培地が乾いた、水分が不安定だった
カルシウムを根から運ぶには、水が必要です。
なので、根域が乾きすぎる。
水分が多い状態と乾燥を繰り返す。
定植直後に一時的に吸水が追いつかない。
こうした水ストレスでも、Caの吸収・移動が悪くなる可能性があります。
定植したばかりの苗は、まだ新しい培地へ十分根を張れていません。
そのため、
培地には水があるのに、
まだ根が十分使えていない。
という時期もあります。
今回の症状が、定植直後の根の活着時期に受けたストレスの「遅れて見えてきた結果」という可能性も、私は候補に入れています。
⑧ 逆に水が多すぎて、根の働きが落ちる
水が少ないのも問題。
でも、多すぎるのも問題です。
培地が常に過湿になり、空気が少なくなる。
すると根の呼吸が落ちます。
根も、生きています。
酸素を使ってエネルギーを作り、そのエネルギーを使いながら養分を吸収します。
過湿で根の活動が落ちれば、Caを含む養分の吸収能力も低下します。
水が多ければ、
Caがたくさん吸える。
ではない。
水と空気のバランスも重要です。
⑨ 根の傷み・活着不良
定植直後というところを考えると、根の状態も見ないといけません。
根傷み。
定植時の根鉢の状態。
高い根域温度。
低酸素。
根の病気。
こういったものによって根の吸水力が落ちれば、地上部へ運べるCaも減ります。
チップバーンというと葉ばかり見てしまいますが、
原因が葉にあるとは限らない。
根を見ないと分からない。
ということです。
⑩ pHが合っていない
根は、どんなpHでも同じように養分を吸えるわけではありません。
根域pHが極端に高かったり低かったりすると、根そのものの働きや、各養分の利用しやすさが変わります。
カルシウムだけではなく、ホウ素など他の要素にも影響します。
なので、給液のpHだけではなく、
培地側のpHがどうなっているか
も、必要なら確認したいところです。
⑪ 根域温度
根の温度も、吸水・呼吸・養分吸収へ影響します。
高すぎる。
低すぎる。
急激に変化する。
こうした条件で根の活動が変われば、Caの供給にも影響します。
特に高設栽培は、地面から離れているため、時期によっては培地温度が上がりやすい。
定植後の残暑期は、気にしておきたい部分です。
⑫ 急激に生育が進んだ
肥料が濃くなくても、条件が良ければ植物は急に伸びることがあります。
気温。
日射。
水。
根の活着。
それらが揃って、一気に新葉が展開する。
すると、Caを必要とする若い組織が急増します。
Ca供給量は同じ。
でも、必要量が急に増えた。
これでも相対的な不足は起こり得ます。
研究でも、クラウンが大きく生育旺盛な株ほどチップバーンが多かった例があります。
⑬ 光が強い・日長が長い
これも、生育速度との関係があります。
強い光。
長い日長。
光合成が進み、生育が速くなる。
その結果、Ca供給が追いつきにくくなる場合があります。
いちごでも、強い光や長い日長でチップバーンが増える傾向が報告されています。
なので、単に「肥料」だけを見るのではなく、植物全体の成長速度を見る必要があります。
⑭ 品種による違い
同じ環境、同じ肥料でも、すべての品種が同じようにチップバーンを起こすわけではありません。
研究でも、品種によって明確に発生率が違っています。
葉の形。
生育速度。
Caを取り込む能力。
体内での分配。
こういった遺伝的な違いが影響すると考えられます。
今回調べた範囲では、越後姫のチップバーン感受性を他品種と直接比較した十分な資料までは確認できませんでした。
なので、ここは決めつけずに見ていきます。
⑮ ホウ素不足
チップバーンに似た症状を考える時、ホウ素も無視できません。
古いいちご研究では、根域のホウ素不足によってもチップバーン様の症状を誘発できたとされています。
ホウ素も、生長点や細胞壁の形成に重要な微量要素です。
不足すると、
新葉が変形する。
生長点が傷む。
葉が縮れる。
といった症状が出ます。
なので、典型的なCa由来のチップバーンなのか、他要素の問題なのかも見分ける必要があります。
⑯ 本当は「チップバーンではない」可能性もある
さらに大事なのがこれです。
葉の縁が茶色い。
だから全部チップバーン。
とは限りません。
似た見た目になるものがあります。
高ECやNa・Clなどで葉縁が枯れる。古い葉にも出やすい。
古い葉の縁から黄化・褐変することがある。
新葉の変形、生長点障害などを伴う場合がある。
散布液や濃い資材が葉へ付着して組織を傷める場合がある。
斑点や病斑が葉縁まで広がり、似た褐変に見える場合がある。
だから、
「葉先が茶色い=Caを足そう」
では危ないんですよね。
むしろ、カルシウムを増やせば解決とは限らない
ここも意外でした。
「Ca不足ならCaを増やせばいい。」
と考えたくなります。
でも、いちごの研究では、根域のCa濃度を上げてもチップバーン発生率と単純には相関しなかった例があります。
さらに古い研究では、十分量以上の硝酸カルシウムを入れて養液を濃くすると、逆にチップバーンが増えた例もあります。
養液の浸透圧が上がって、水の流れが悪くなるからです。
Ca不足だから、Caを足す。
それだけでは解決しないことがある。
だから今回も、原因が分からない状態で肥料濃度だけを上げるのは、私は違うかなと思っています。
今のところ、私が優先して確認したいこと
ECが0.5〜0.6程度だったことを考えると、私は今のところ、単純な「高肥料濃度」以外を先に見たいと思っています。
特に曇天・雨天が続いた時と、夜の湿度や溢泌の有無。
乾きすぎ、過湿、株や場所によるばらつきがなかったか。
白い新根が出ているか、活着が揃っているか、傷みがないか。
給液が薄くても、根の周りが同じとは限らない。
ECだけでは分からないので、必要なら養液分析や葉分析で確認する。
一番新しい葉なのか、数枚前の葉なのか。同時期に形成された葉へ集中していないか。
ハウス全体か、特定列か、入口側か中央か、灌水ラインと関係があるか。
こういうところを一つずつ確認していくと、原因候補を絞れそうです。
そして、今見えているチップバーンから「過去」を見る
今回、特に意識したいのがこれです。
症状が出た今日の環境だけを見るのではなく、
その葉がまだ小さかった時。
クラウンの中にあった時。
定植直後だった時。
そこまで時間を戻して考える。
今日見えている症状は、
数日前の植物からの
「答え」かもしれない。
そう考えると、
定植直後の天気。
湿度。
灌水。
根の活着。
その辺りの記録と照らし合わせる意味があります。
これが農業の面白くて難しいところ
肥料を入れた。
だから、その結果が今日出る。
というほど単純ではありません。
数日前の温度。
夜の湿度。
その時の根の状態。
水分。
生育速度。
養分同士のバランス。
いろいろなものが重なって、数日後に葉へ結果として出てくる。
植物は、
過去の環境を葉っぱに残している。
そんな感じなんでしょうね。
これが難しい。
でも、面白いところでもあります。
「あった!」と「なんで?」が同時に来る(笑)
花芽を見つけて、
「あった!」
と喜ぶ。
その横の葉を見て、
「なんで?」
と悩む(笑)
いちごを作っていると、本当に毎日こんな感じです。
全部順調。
全部問題なし。
という日は、意外と少ない。
何かが良くなれば、別のところが気になる。
でも、その一つ一つを調べて、
試して。
記録して。
次の管理へつなげる。
今年の「なんで?」を、
来年の「分かってる」に変えていく。
それが、栽培なんでしょうね。
PS:
今回チップバーンについてかなり調べてみました。
調べれば調べるほど、
「Caが足りないからCaを入れればいい。」
みたいな簡単な話じゃないことが分かります。
ECも高くない。
窒素もそんなに強くしていない。
それなのに出る。
だから面白い……。
いや、栽培している側からすると、面白いだけじゃ困るんですけどね(笑)
まずは、根。
水分。
昼夜の湿度。
培地ECとpH。
養分バランス。
このあたりから見直してみようと思います。
そして花芽の方は、もう少しで開花。
嬉しいことと悩むこと、両方いっぺんに始まってきました(笑)