一度失敗しているからこそ、ちょっとした遅れが気になります
「花芽飛ばした?」と思ったら
ちゃんと上がってきた(笑)
温度でいちごの成長速度はどれくらい変わる?
花芽はできている。
でも、なかなか外へ出てこない。
調べてみると、
「花芽を作る温度」と「花芽が育つ温度」は、
少し分けて考えた方がよさそうでした。
この記事の要点
まずは4コマでどうぞ(笑)
「ない……。」
「まだない……。」
からの、ようやく発見です(笑)
「ちょっと、やばいかな?」
「ちょっと、やばいかな?」
「もう出てきてもいいと思うんだけどな?」
って思いながら、ハウスの中を見渡していました。
何のことかというと、一番早く定植したハウスの花芽です。
花芽というのは、簡単にいうと、これから花になって、その先にいちごが実る部分。
定植前は、苗の中にある小さな花芽を顕微鏡で確認していました。
その花芽が成長して、株の中心から少しずつ上へ上がってきます。
ところが……。
思っていたより、
上がってこない。
スケジュール的には、もう少し出ていてもいい頃
定植した日から逆算して考えると、そろそろもっと花芽が見えてきてもいい頃です。
もちろん、数株では確認できていました。
でもハウス全体を見ると、
「思ったより少ないなぁ……。」
という感じ。
すると頭をよぎります。
「もしかして……
今年も花芽飛ばしちゃった?」
過去に一度、花芽を飛ばした経験があります。
一度経験しているだけに、こういう時はどうしても気になります。
でも、残りの定植も止められない
とはいえ、ずっと最初のハウスだけを見ているわけにもいきません。
残りのハウスでは、まだ定植が続いています。
苗を集めて。
運んで。
植えて。
次のハウスへ。
気になりながらも、そちらの作業を進めます。
そして昨日。
改めて最初のハウスを見てみると……。
「あっ!
上がってきてる!」
ありました(笑)
こんな感じです
良かった〜(笑)
まずは一安心です。
「花芽がなかった」のではなく、少し遅れて上がってきたようです。
気になったのが「場所による違い」
ここで、もう一つ気になったことがあります。
ハウスのどこでも同じように遅れていたわけではありません。
特に上がりが遅く感じたのが、
ヒートポンプの近く。
です。
ヒートポンプというのは、簡単にいうとハウスの中に入っている大型のエアコンみたいなものです。
今の時期は、夜に冷房として使っています。
そのため、ヒートポンプのすぐ近くでは、他の場所より冷気の影響を受けやすい。
「もしかして、この温度差で生育速度が違ったのかな?」
と思いました。
そこで、温度といちごの成長について改めて調べてみました。
植物は、温度によって「進む速さ」が変わる
植物の生育は、温度の影響をかなり受けます。
なぜかというと、植物の中で起きている、
細胞分裂。
細胞の伸長。
光合成。
呼吸。
養分の吸収。
物質の移動。
こういった反応の多くが、温度によって速さを変えるからです。
一般的には、植物にはそれぞれ、
低すぎる
↓
生育が遅い
適温
↓
生育が速い
高すぎる
↓
再び生育が落ちる
という温度反応があります。
つまり、
暖かければ暖かいほど、ずっと速くなるわけでもない。
逆に、
冷たければ冷たいほど、いちごにいいわけでもない。
ということです。
ここで混同しやすいのが「花芽分化」と「花芽の成長」
いちごは、
「涼しくなると花芽分化する。」
というイメージがあります。
これは大きく間違ってはいません。
一季成り性のいちごでは、短日や低温が花芽分化を促す方向に働きます。
でも、今回見ているのは、花芽分化そのものとは少し違います。
① 花芽を作る
と
② できた花芽が成長して
外へ上がってくる
は、別の段階です。
定植前の検鏡で確認していたのは①。
今回、ハウスで待っていたのは②です。
ここを分けて考えないと、
「低温は花芽にいいんだから、冷たいほど早く上がるはず。」
となってしまいます。
実際には、そう単純ではありません。
花芽ができた後は、ちゃんと「成長」しないといけない
顕微鏡で確認できるほど小さかった花芽。
そこから、花になるまでには、さらにたくさんの成長が必要です。
花芽の組織が大きくなる。
花房が伸びる。
蕾が成長する。
そして、外から見える。
最終的には花が咲く。
この過程は、普通の葉や茎と同じように温度の影響を受けます。
「花芽はある」
のに
「なかなか上がってこない」
ということは起こり得ます。
いちごでも、低温になると生育速度は落ちる
いちごでは、温度と葉の展開速度を調べた研究があります。
品種によって数字は違いますが、温度が上がるにつれて葉の展開速度が速くなり、低温になるほど遅くなる傾向が確認されています。
また、高設栽培でクラウン部分を局所的に温めた研究では、加温しない株より、
草丈。
葉柄。
葉の展開。
花房の開花。
などが早くなっています。
つまり、
株の中心にあるクラウンの温度も、
いちごの「進む速度」に影響する。
ということです。
越後姫でも、クラウンを温めると生育が進む
しかも、これは越後姫でも研究されています。
新潟県の試験では、冬の低温期に越後姫のクラウン部分を約20℃に加温すると、クラウン加温をしない場合に比べて冬季の生育が促進されました。
さらに、腋花房の収穫時期も前進しています。
つまり越後姫でも、
同じ花芽があっても、
クラウン周辺の温度によって
その後の生育速度が変わる。
ということが分かります。
もちろん、これは冬季のクラウン加温試験です。
今の苺の花ことばの9〜10月の環境へ、そのまま数字を当てはめられるわけではありません。
でも、
「温度差で株の進み方が変わる。」
という点では、今回の観察とつながります。
研究では「夜12℃」が早かった例もある
ここで、もう一つ面白い研究があります。
海外の「Korona」「Elsanta」といういちご品種で、昼温と夜温を変えて花が出てくるまでを調べた試験です。
その試験では、
昼18℃
+
夜12℃
付近で花が早く出てきました。
一方、夜温6℃では花が出てくる株が大きく減りました。
つまり、
夜温12℃程度なら、必ず「低すぎて生育が遅い」というわけではありません。
ここは今回かなり大事なところです。
じゃあ、ヒートポンプ付近が遅かったのはなぜ?
苺の花ことばでは、夜にヒートポンプ冷房を使っています。
夜温の設定は、およそ12℃。
この「12℃」という数字だけを見ると、極端に低いわけではなさそうです。
なので、
「12℃にしたから花芽の上がりが遅れた。」
と断定するのは違うと思います。
ただし、気になるのは、
ヒートポンプのすぐ近くは、
設定温度と同じとは限らない。
ということです。
冷たい風が直接当たる。
株の周囲だけ一時的にもっと温度が下がる。
クラウン自体が他の場所より冷える。
そういう「局所的な低温」があれば、他の場所より生育速度が遅くなる可能性はあります。
今回、ヒートポンプ付近だけ遅かったのであれば、この仮説は一度確認する価値がありそうです。
逆に「暑すぎる」のも、花芽の発育にはよくない
では、暖かければいいのか。
これも違います。
農研機構の研究では、花芽分化を誘起したいちご苗を、昼35℃・夜20℃程度の高温へ5〜10日間さらすと、花芽の発達が遅れやすくなりました。
高温にさらされる期間が長いほど、その遅れも大きくなっています。
つまり花芽の発育は、
冷たすぎても遅い。
暑すぎても問題が出る。
その間に、進みやすい温度帯がある。
と考える方がよさそうです。
植物には「積算温度」という考え方がある
植物の生育を考える時に、よく使われるのが「積算温度」という考え方です。
簡単に言うと、
植物の生育は、カレンダーの日数だけで進むのではなく、
毎日どのくらいの温度を経験したか
の積み重ねでも進む、という考え方です。
同じ10日間でも、暖かい10日間と涼しい10日間では、植物の進み方は同じではありません。
適温の範囲では、温度が高いほど発育に必要な温度の積み上がりが早くなります。
そのため、
「定植から○日だから、そろそろ。」
だけではなく、
「定植後、どんな温度で過ごしたか。」
まで見た方が正確になります。
同じハウスでも「同じ温度」とは限らない
これも今回、改めて感じました。
ハウスの温度計には、
「12℃」
と表示されている。
だから、ハウス全体が12℃。
……とは限りません。
ヒートポンプの前。
中央。
端。
入口。
地面に近いところ。
クラウンの高さ。
場所によって、微妙に違います。
「ハウスの温度」
ではなく、
「株が感じている温度」
を見る必要があるんでしょうね。
来年は、場所別に温度を測ってみたい
もし今回の違いをきちんと確かめるなら、やることは意外とシンプルです。
例えば、
ヒートポンプのすぐ近く。
ハウス中央。
ヒートポンプから一番遠い場所。
この3か所くらいに温度ロガーを置きます。
しかも、できれば空中の高い位置ではなく、
いちごのクラウン付近の高さ。
で測る。
そして、
最低温度。
平均夜温。
冷房開始直後の温度。
花芽が外から見えた日。
を比べます。
これを何株か記録すれば、
「ヒートポンプの近くだから遅かった気がする。」
から、
「実際に○℃低くて、○日遅れた。」
へ変わります。
「感覚」を数字で確認すると、次の栽培に使える
今回、最初は完全に感覚でした。
「なんか、この辺だけ遅いな。」
です(笑)
でも、この感覚って結構大事だと思っています。
毎日見ているからこそ、
「いつもと違う。」
に気づけます。
そして、その次に、
感覚
↓
仮説
↓
測る
↓
次の管理へ
まで進める。
そうすると、今年の気づきが来年の栽培技術になります。
今回、一番安心したのは「飛んでなかった」こと(笑)
温度の話をいろいろ書きましたが……。
今回、何より良かったのは、
ちゃんと花芽があった(笑)
ということです。
過去に一度失敗しているだけに、
「ない。」
「まだない。」
が続くと、やっぱり不安になります。
でも今回は、少し待ったらちゃんと上がってきました。
「花芽が飛んだ」のではなく、
「場所によって成長速度に少し差があったのかもしれない。」
というところまで見えてきました。
そして、定植もいよいよラスト
花芽も確認できて、一安心。
そして残っている定植も、あと少しです。
今日、越後姫の定植を終わらせる予定。
そして月曜日には、桃薫。
そこまで終われば、
今シーズンの定植、
すべて終了です。
6月頃から、ずーっと準備してきました。
ハウスを片付けて。
棚を直して。
培地をほぐして。
点滴チューブを交換して。
苗を管理して。
そして定植。
やっと、ここまで来ました。
PS:
最初のハウスの花芽も上がってきて、残りの定植もあと少し。
ようやく、
「今年の準備が終わるなぁ〜。」
という感じになってきました。
ただ、これで終わりではありません。
次は開花。
クロマルさん。
灌水。
肥料。
温度。
そして収穫。
やることは、まだまだ続きます(笑)
でも、まずは目の前の定植。
今日、越後姫を終わらせて。
月曜日の桃薫まで。
あと少し、ラストスパートです!