いちごの高設棚改修で見つけた、新しい作業方法 人を速く動かすより、作業そのものを減らす。 高設棚の改修で気づいた「10倍思考」 今までの作業を少し速くするのではなく、 今まで必要だと思っていた工程そのものをなくす。 それだけで、仕事は一気に変わることがあります。 この記事の要点 去年までの方法は、培土を地面へ落とし、もう一度持ち上げて運んでいました。 今年は乾燥させた培土を持ち上げ、そのまま袋へ入れる方法を試しました。 人の動きを速くするより、不要な工程をなくす方が、大きな効率化につながりました。 「去年のやり方、作業しにくかったよね……」 「去年は、ああやってたけど、作業しにくかったよね……」 「今年は、どうする?」 そんな話をしながら、クルーと一緒にハウスの高設棚を眺めていました。 今回作業しているのは、4棟目のハウスです。 いちごを植える高設棚の、ハンモックのようになっている部分を交換する時期がきました。 高設棚を支えている鉄パイプは、まだまだ使えます。 しかし、培土を支えているビニールや不織布は、長年使ってきたことで破れかかっていました。 そこで、古い培土を取り出し、ビニールや不織布を交換して、高設棚を作り直していきます。 問題は、培土をどうやって取り出すか 高設棚を作り直すには、最初に中の培土をすべて取り出さなければいけません。 去年までと同じ方法でも、作業はできます。 でも、クルーのみんなには、 「去年のやり方、めちゃくちゃ大変だったよね……」 という記憶が残っていました(笑) 今までの方法では、まず高設棚のハンモック部分を鎌で切り裂きます。 すると、中に入っている培土が地面へ一気に落ちます。 その培土を地面から持ち上げ、台車へ載せ、ハウスの外へ運び出していました。 しかも、培土はきれいにまとまって落ちてくれません。 細かく散らばるため、すべて運び終わった後にも、地面に残った培土を集める作業が待っています。 去年までの作業工程 1.高設棚を鎌で切り、培土を地面へ落とす 2.落とした培土を地面から持ち上げる 3.培土を台車へ載せる 4.台車でハウスの外へ運ぶ 5.地面に散らばった培土を掃除する 落としたものを、もう一度持ち上げる。 かなり手間のかかる方法でした。 「試しに持ち上げてみるか!」 そこで今年は、 「ほかに、もっと簡単な方法はないかな?」 と、クルーと一緒に考えてみることにしました。 しばらく高設棚を見ながら話していると、 「じゃあ、試しに持ち上げてみるか!」 ということになりました。 高設棚の下から培土を持ち上げてみると、 「あれ?」 驚くほど簡単に持ち上がりました。 今までの培土は水分を含んでいて、とても重たい状態でした。 しかし今年は、あらかじめカラカラになるまで、しっかり乾燥させています。 そのため、人の力でも簡単に持ち上げられるほど軽くなっていました。 今年の新しい作業方法 1.乾燥させた培土を、高設棚の下から持ち上げる 2.運びやすい長さに手で切り分ける 3.持ち上げた培土を、そのまま袋へ入れる 4.袋に入れた培土をハウスの外へ運ぶ 培土を地面へ落とす工程と、 地面から持ち上げ直す工程がなくなりました。 「めちゃくちゃ簡単じゃん!」 実際にやってみると、今までの苦労は何だったのだろうと思うほど、作業がスムーズに進みました(笑) 今回の方法なら、培土を地面へ落としません。 そのため、地面に培土が散らかりません。 一度地面へ落とした培土を、もう一度持ち上げる必要もありません。 高設棚から持ち上げた培土を、そのまま袋へ入れられます。 持ち上げやすい 地面が汚れない 片付けが簡単 運び出しやすい 一石二鳥どころか、一石三鳥以上です(笑) 実際の作業はこちら 培土を高設棚から持ち上げ、そのまま袋へ入れている様子をご覧いただけます。 ▶ 実際の作業動画を見る 培土を取り出した後も、改修は続きます 培土を取り出した後は、古くなったビニールや不織布を外し、新しい高設棚へ順番に作り直していきます。 ↓ ↓ ↓ 見えにくい排水部分も、次の収穫を支えます 現在は、高設棚の培土を取り除くだけでなく、排水部分の取り付けも少しずつ始めています。 いちごを育てる時は、水や肥料を与えることだけでなく、余分な水分をきちんと排出することも大切です。 排水がうまくいかないと、培土の中に水分が残りすぎてしまいます。 すると、いちごの根にとって良い環境を保てなくなることがあります。 目立つ設備ではありませんが、 次のいちごづくりを支える大切な部分です。 設備の改修には経費がかかるため、できる限り長く使いたいという気持ちもあります。 ただ、いちごを植えてからでは簡単に直せません。 何も植わっていない今だからこそできる、来シーズンへ向けた大切な準備です。 この改善は「10倍思考」に近いのか 今回の作業をしながら、改めて感じたことがあります。 作業効率を上げるために、体の使い方を工夫したり、手を速く動かしたりすることは大切です。 同じやり方のまま、一人ひとりの動きを速くすれば、作業効率を1.3倍や1.5倍にできるかもしれません。 でも、人が速く動くことには限界があります。 一方で、作業のやり方そのものを変えると、効率が3倍、場合によっては5倍以上になることがあります。 この発想は、一般に「10倍思考」や「10X思考」と呼ばれる考え方に近いと思います。 今の作業を10%速くするのではなく、 今の作業を10分の1にするには、 やり方をどう変えればよいのかを考える。 実際に10倍になるかどうかよりも、今の方法を前提にしないところに意味があります。 「10倍を目指す」はAmazonよりGoogleに近い 「成果を10倍にする」という言い方は、Amazon独自の考え方というより、Googleなどで知られる10X思考に近いものです。 ただし、今回の改善はAmazonが大切にしている考え方とも重なります。 特に近いと感じたのは、次の三つです。 Invent and Simplify 新しい方法を考え、複雑な工程を簡単にすること。 Working Backwards 欲しい結果を先に考え、そこから必要な作業を逆算すること。 Two-Way Door やり直せる小さな判断なら、長く悩まず試してみること。 今回の「試しに持ち上げてみるか」という判断は、失敗しても元の方法へ戻せる小さな実験でした。 長い会議も、大きな設備投資も必要ありません。 まず一部分を持ち上げてみた。 その結果、簡単に持ち上がることが分かった。 だから、その場で新しい方法へ切り替えられました。 欲しい結果から逆算すると、工程の無駄が見える 今回、本当に欲しかった結果は何だったのか。 培土を地面へ落とすことではありません。 培土を鎌で切ることでもありません。 欲しかった結果は、 高設棚の培土を、 安全に、早く、きれいに外へ運び出すこと です。 この結果から逆に考えると、培土を地面へ落とす必要はありません。 台車へ積み替える必要もないかもしれません。 地面の掃除も、最初から散らかさなければ不要です。 今まで行っていた作業を一つずつ見て、 「これは本当に必要なのか?」 と考えることで、なくせる工程が見つかります。 「人を速くする改善」と「工程をなくす改善」 人を速くする改善 ・歩くスピードを上げる ・持ち上げる回数を増やす ・休まず作業する ・一人ひとりの動作を速くする 効果:1.1倍〜1.5倍程度 工程をなくす改善 ・地面へ落とさない ・持ち上げ直さない ・台車へ載せ替えない ・散らかった培土を掃除しない 効果:数倍になる可能性 人の頑張りだけに頼るのではなく、頑張らなくても進む方法を作ることが大切です。 状況が変われば、正しい方法も変わる 今までの方法が、最初から間違っていたわけではありません。 当時は、培土に水分が残っていて、とても重たかった。 持ち上げることができなかったため、鎌で切って地面へ落とす方法が、一番現実的だったのだと思います。 でも今年は、培土をしっかり乾燥させることができました。 条件が変わったことで、今まで使えなかった方法が使えるようになったのです。 去年の正解が、 今年も正解とは限りません。 長く続けている作業ほど、 「毎年こうしているから」 「前からこの方法だから」 と、今のやり方を当たり前だと思ってしまいます。 だからこそ、毎年同じ作業でも、その時の条件をもう一度確認する必要があります。 大きな改善を見つける六つの順番 1.欲しい結果を決める 何のために作業しているのかを、短い言葉で整理します。 2.今の工程を全部書き出す 落とす、持ち上げる、載せる、運ぶ、掃除するなど、実際の動きを分けます。 3.なくせる工程を探す 速くできないかより先に、そもそも行わなくてよい工程がないかを考えます。 4.前提条件を疑う 培土は重い、地面へ落とすしかないなど、当たり前になっている考えを見直します。 5.小さく試す いきなり全部を変えず、まず一部分で試し、結果を確認します。 6.うまくいった方法を標準化する 誰が作業しても同じ方法を使えるように、手順や注意点を共有します。 考える、試す、直す。その繰り返しで仕事を変える 今回の方法も、最初から答えが分かっていたわけではありません。 クルーと話しながら、 「試しにやってみよう」 と実際に持ち上げたことで、新しい方法を見つけることができました。 考える。 試してみる。 うまくいかなければ、別の方法を考える。 うまくいったら、次の作業へ生かす。 一人ひとりに頑張ってもらう前に、 頑張らなくても進む方法を考える。 そうやって、苺の花ことばの仕事も、少しずつ変えていきたいと思います。 4棟目の高設棚の改修は、まだ途中です。 これから新しい資材を取り付け、排水部分を整え、次に植える越後姫を迎える準備を進めていきます。 PS 去年までの大変な作業を覚えているからこそ、今回の方法が簡単すぎて少し笑ってしまいました。 ただ、来年になったら、またもっと良いやり方が見つかるかもしれません。 今年の正解を来年も疑いながら、少しずつ作業を変えていきたいと思います。