メイド・イン上越の総会へ参加する前に考えたこと なぜ事業者の集まりは動きにくいのか。 地域ブランド組織を前へ進める運営の考え方 会社のようにトップが決めれば動くわけではない。 でも、全員の意見がそろうまで待っていたら何も進まない。 横一列の組織をどう動かすか考えました。 この記事の要点 複数の事業者が集まる会は、参加目的や得たい成果がそれぞれ異なります。 役割や担当が曖昧だと、「誰かがやるだろう」という責任の分散が起こりやすくなります。 うまく進む会には、共通の目的、明確な担当、期限、成果指標があります。 「今週末の午後は出かけてきます」 「今週末の午後は出かけてきますので、留守をお願いします」 ミーティングで、クルーのみんなにそう伝えました。 何をしに行くのかというと、メイド・イン上越特産品の販売を推進する会の総会に参加するためです。 実は今年から、この会の役員をさせていただいています。 上越で作られた良い商品を、もっと多くの人に知ってもらう。 認証された事業者が持っている経験や知識を持ち寄り、地域ブランドとして販売を伸ばしていく。 目的だけを聞けば、すごく分かりやすい活動です。 ただ、実際に会の中へ入ると、会社を運営するのとは違った難しさがあるなと感じます。 会社は、最終的に方向を決める人がいる 会社の場合は、 「こんな商品を作りたい」 「こんな会社にしていきたい」 という考えを持った人がトップに立ち、その考えを軸に会社を運営していきます。 もちろん、社長一人の考えだけですべてを決めるわけではありません。 従業員の意見を聞く。 お客様の声を見る。 数字を確認する。 そのうえで、最終的には、 「この方向へ進む」 と判断する人がいます。 判断が正しいかどうかは別として、誰が決めるのかが明確なので、方針は比較的決めやすい。 決まった後は、役割を分けて実行できます。 事業者の集まりは、全員がそれぞれの会社の代表 一方で、いろいろな事業所が集まって運営している会は、事情が違います。 参加している人は、それぞれ自分の会社やお店では代表や責任者です。 商品も違う。 お客様も違う。 会社の規模も違う。 売り方も違う。 会に参加する理由も違います。 新しい販売先を 見つけたい人 地域ブランドの認知を 高めたい人 イベントで直接 販売したい人 ほかの事業者と 情報交換したい人 同じ会に入っていても、期待している成果が同じとは限りません。 しかも、会長や役員はいても、会社の社長と従業員のような関係ではありません。 立場としては、基本的に横一列です。 誰かが、 「これをやりましょう」 と言ったからといって、会社のようにすぐ動けるわけではありません。 なぜ、こうした会の運営は難しいのか 単に人数が多いから難しいわけではありません。 人が集団になった時に起こりやすい心理が、いくつも重なっているからだと思います。 1.目的が少しずつ違う 全員が「上越の商品をもっと売りたい」と思っていたとしても、その言葉の中身は人によって違います。 自社商品の売上を増やしたい。 地域全体の認知を上げたい。 市外の商談会へ出たい。 地元のイベントを盛り上げたい。 どれも間違いではありません。 ただ、同じ言葉を使っていても、頭の中で描いているゴールが違うと、具体的な活動を決める段階で意見が分かれます。 「販売促進をしよう」と言うだけでは、まだ曖昧です。 誰に売るのか。 どこで売るのか。 今年は何を伸ばすのか。 ここまで具体的にしないと、同じ方向を向いているようで、実は違う方向へ進んでしまいます。 2.「誰かがやるだろう」が起こりやすい 行動心理学や社会心理学には、責任の分散という考え方があります。 関わる人が増えるほど、一人ひとりが感じる責任が薄くなりやすいというものです。 例えば、会議で、 「今度、SNSで発信した方がいいですね」 という話が出たとします。 みんなが賛成する。 でも、誰が投稿文を作るのか決まっていない。 誰が写真を集めるのかも決まっていない。 いつ投稿するのかも決まっていない。 すると、全員が必要だと思っていたのに、何も起こらないことがあります。 「みんなでやる」は、 「誰も担当していない」と同じ状態になることがあります。 これは、やる気がないからとは限りません。 担当が明確ではないため、自分が動くべきなのか判断できないのです。 3.集団になると、一人当たりの行動が見えにくくなる 集団で作業をすると、一人で担当する時よりも努力量が下がることがあります。 これは、社会心理学では社会的手抜きと呼ばれます。 少し言葉は悪いですが、本人が意識的にさぼっているとは限りません。 自分がどれだけ貢献したのか見えにくい。 頑張っても、頑張らなくても結果が同じに見える。 ほかの人がやってくれると思う。 こうした状態が重なると、行動量が下がりやすくなります。 逆に言えば、 「誰が何を担当するのか」 「いつまでに何を終わらせるのか」 「どんな成果が出たのか」 が見える組織では、行動しやすくなります。 4.変えるメリットより、変える負担が先に見える 新しいことを始める時、成果はまだ見えません。 でも、費用や作業負担はすぐに見えます。 例えば、新しいイベントへ出るとします。 売上がどれくらい増えるかは分からない。 一方で、出店料、交通費、人員、準備時間はすぐに必要になります。 人は、得られるかもしれない利益よりも、目の前で失うものを強く感じやすい傾向があります。 だから、 「前年と同じことを続けた方が安全」 という判断になりやすい。 これが続くと、会議は開いているけれど、活動はほとんど変わらない状態になります。 前年と同じことをするのが悪いわけではありません。 ただ、目的を考えずに前年踏襲を続けると、少しずつ活動が形だけになってしまいます。 5.全員の納得を求め過ぎると、決められなくなる 横一列の組織では、意見を聞くことがとても大切です。 一人の考えだけで進めれば、ほかの会員が置いていかれてしまいます。 ただし、すべての活動について全員一致を求めると、決定に時間がかかります。 そもそも、商品もお客様も違う事業者が、すべて同じ意見になる可能性は高くありません。 大切なのは、全員が同じ結論になることではなく、 意見を言えること。 判断基準が分かること。 どのように決まったのかが見えること。 こうした決め方の公平さがあると、自分の希望どおりではない結論でも受け入れやすくなります。 全員の意見を聞くことと、 全員一致になるまで決めないことは別です。 では、どんな運営ならうまく進むのか うまく進む会には、特別に強いリーダーがいるとは限りません。 むしろ、目的、役割、決め方、進捗が見える仕組みが整っています。 1.会の目的を、一文で言えるようにする 会の規約には、立派な目的が書かれていると思います。 ただ、実際に活動する時には、もっと短く、全員が覚えられる言葉が必要です。 例えば、 「メイド・イン上越認証品の売上と認知を増やす」 このくらいまで短くすると、活動を決める時の判断基準になります。 この企画は、認知を増やすのか。 売上につながるのか。 どちらにもつながらないなら、本当に行う必要があるのか。 共通の目的が、会議で迷った時の基準になります。 2.一年で取り組むことを、二つか三つに絞る やりたいことを挙げると、たくさん出てきます。 イベント出店。 共同販売。 オンラインショップ。 SNS。 商談会。 パンフレット。 新商品の開発。 全部必要に見えます。 でも、すべてに少しずつ取り組むと、どれも中途半端になりやすい。 だから、今年は何を優先するのかを決める。 共同の売り場を増やす 認証品の情報発信を強化する 会員同士の販売連携を作る 優先順位を絞ると、人も予算も集中できます。 3.担当者、期限、成果を決める 「SNSを頑張る」だけでは、仕事になりません。 具体的には、 誰が:広報担当の3事業者 何を:会員商品を週2回紹介する いつまで:8月から3か月間実施する 何を見る:閲覧数、サイト流入、問い合わせ数 ここまで決まって、初めて実行できます。 担当者を決めることは、その人へすべてを押し付けることではありません。 中心になって進める人を明確にし、周りが必要な協力をするという意味です。 4.総会で全部を実行しようとしない 会員全員が集まる会議は、方向性や予算、大きな判断を決める場所にする。 実際の作業は、少人数のプロジェクトチームで進める。 この分け方が必要だと思います。 例えば、 販売チーム。 広報チーム。 イベントチーム。 関心がある人や、得意な人が参加し、具体的な仕事を進めます。 全員がすべての仕事に参加する必要はありません。 必要な時に、必要な人が関わる方が動きやすい。 そして、進捗や成果だけを全体へ共有します。 5.参加するメリットを、具体的に見せる 地域のため。 上越のため。 もちろん、それは大切です。 でも、それだけで事業者へ継続的な参加を求めるのは難しいと思います。 事業者には本業があります。 参加する時間にも、準備する時間にも費用がかかります。 だから、 何件の商談が生まれたのか。 イベントでいくら売れたのか。 商品ページへのアクセスがどれだけ増えたのか。 新しい取引先が何社できたのか。 こうした成果を共有することが大切です。 成果が見えると、 「次も参加してみよう」 「自社の商品でも試してみたい」 という人が増えていきます。 実際にうまく進んでいる地域の事例 今治タオルは「全員が守る基準」を明確にした 地域ブランドの代表例として知られている今治タオルでは、産地のすべての商品を同じデザインにしたわけではありません。 各社がそれぞれの商品を作りながら、ブランドマークを付けるための共通品質基準を設けています。 吸水性を確認する「5秒ルール」など、今治タオルとして守るべき価値を明確にしました。 全員が同じ商品を作る必要はない。 でも、ブランドとして最低限守る価値は統一する。 個性は各社に任せる。 信頼につながる共通部分だけは、全員で守る。 地域ブランドの運営では、この考え方が参考になると思います。 メイド・イン上越でも、事業者ごとの違いをなくす必要はありません。 むしろ違いが魅力です。 そのうえで、メイド・イン上越として、お客様に何を約束するのかを共有することが大切なのだと思います。 余市町は「地域全体のメリット」を丁寧に説明した 北海道余市町のワイン産業に関する地域づくりでは、行政、農協、農業改良普及センター、大学関係者などが定期的に集まり、話し合いを重ねた事例があります。 ワイン産業を支援することが、ワイン事業者だけの利益ではなく、建設業やサービス業など地域全体にも波及することを丁寧に説明しました。 その結果、関係する団体が事業へ主体的に参加しやすくなりました。 ここで大切なのは、 「地域のために協力してください」 だけではなかったことです。 なぜ取り組むのか。 自分たちにも、どのような意味があるのか。 そのつながりを具体的に示しています。 会員ごとに期待するメリットが違うからこそ、それぞれにとっての意味を伝える必要があります。 うまくいく地域事業には、役割分担と数字がある 地方創生の事例を見ると、うまく継続している活動には共通点があります。 事業を進める主体が明確。 行政、団体、事業者の役割が分かれている。 何を成果とするのか、数字が設定されている。 定期的に進捗を確認し、必要なら修正する。 つまり、良い思いだけではなく、実行する仕組みがあります。 思いがある人はたくさんいます。 でも、思いを成果へ変えるためには、担当、期限、数字が必要です。 メイド・イン上越で考えたい運営の形 役員になったばかりの私が、いきなり会全体を変えられるとは思っていません。 ただ、実際に商品を作り、ECや卸で販売している立場だからこそ、伝えられることはあると思っています。 まずは、認証されることをゴールにしないこと。 認証された商品を、どう知ってもらうのか。 どこで販売するのか。 認証事業者同士で、何を一緒にできるのか。 その部分まで考えていきたい。 例えば、こんな進め方です。 ・会員が求めていることを最初に確認する ・一年の重点活動を二つか三つに絞る ・活動ごとに責任者と期限を決める ・希望者による少人数チームで実行する ・売上、商談、アクセスなどの成果を共有する ・成果が出ない活動は、見直すかやめる 全員がすべてに参加する必要はありません。 ただし、会全体がどこを目指しているのかは、全員が分かっている。 そんな状態を作れたら、少しずつ動きやすくなると思います。 会長や役員は「全部を決める人」ではない 横一列の組織で、会社の社長のようにすべてを決めようとすれば反発が起きます。 逆に、全員の意見が一致するまで何も決めなければ、活動は進みません。 だから、会長や役員に必要なのは、答えを全部持つことではないと思います。 何を話し合うのかを整理する。 判断基準を明確にする。 意見を言える場を作る。 決まった後の担当を明確にする。 進まない時に、もう一度調整する。 人を上から動かすのではなく、みんなが動ける仕組みを整える。 リーダーの役割は、 自分の意見を通すことではなく、 組織が前へ進める状態を作ること。 こうした会では、それが大切なのかもしれません。 まずは、総会の話をしっかり聞いてきます 進めなければ変わらない。 でも、急ぎ過ぎても周りがついてこられない。 このバランスが、こうした会の難しいところです。 役員になったばかりの私が、いきなり大きなことを変えられるとは思っていません。 まずは、会員の皆さんが何を考えているのか。 会として、どんな課題があるのか。 これまで、どんな活動をしてきたのか。 しっかり聞いてきたいと思います。 そのうえで、実際に商品を作り、販売している立場として、感じていることはきちんと伝えたい。 メイド・イン上越に認証されることがゴールではなく、その先で商品が知ってもらえ、売れていく。 そんな活動につながるように、自分なりに関わっていきたいと思います。 PS 会議中に難しい話が続いて、途中で頭から煙が出ているかもしれません(笑) でも、せっかく役員をさせていただくので、ただ座って聞いているだけではなく、自分なりの意見も伝えてきます。 まずは、総会でどんな話が出るのか、しっかり聞いてきます。